ニキビAcne
ニキビとは
毛穴が詰まった内部でニキビ菌が増殖し炎症を起こす疾患です。思春期はホルモンバランスが大きく変化して皮脂が過剰に分泌され、ニキビを発症しやすい時期です。しかし成人してからもホルモンバランスが崩れたり、ストレスや食生活の乱れ、体調の変化、不適切なケアなど様々な原因によってニキビを発症します。
ある程度の炎症を起こしたニキビは、赤みや色素沈着が数ヶ月以上は残ります。強い赤みや皮膚の凹みなどの場合はさらに長く残り、何年経っても完全には消えません。
院長自身が若い頃にはニキビに悩み、皮膚科医になった後にニキビ痕に対して美容治療を受けました。ニキビ痕の治療は保険外の治療でさらに時間もかかります。自身の経験から、1人でも多くの若い人がニキビとニキビ痕に悩まないように、痕になる前の早めの段階で皮膚科を受診してくれる事を願っています。
ニキビは美容的な側面があるとはいえ、れっきとした皮膚疾患です。当院では、皮膚疾患であるニキビは皮膚科学に基づいた適切な治療が行われるべきだと考えて診療を行っています。再発防止のために必須のスキンケアやメイクの選び方、生活習慣の指導なども行っていますので、お気軽にご相談ください。
ニキビの保険診療
欧米に比べると重症のニキビが少ない日本では、長らくニキビ治療に関して遅れをとっていました。
近年では再発予防を含めた治療を保険診療の範囲内で受けられるようになっていますので、まずはガイドラインに則った適切な治療を行ってみましょう。
ニキビの治療法について大まかに説明します。
使い方が難しいピーリング剤に関してより詳しく書いたブログもよろしければご覧ください。
院長ブログ(note):ニキビの塗り薬、正しく使えてますか?
https://note.com/skindr_yokoi/n/nce9878201874
外用療法(塗り薬の治療)
ピーリング剤(予防薬)
アダパレン(ディフェリンゲル)
初期段階のニキビであるコメド(白ニキビ・黒ニキビ)の形成を抑制します。使い初めの数週間に乾燥や刺激症状(ヒリヒリ、軽い赤み)がありますが、上手に使い続けると1ヶ月くらいで慣れる事が多いです。新しいニキビが少しずつできにくくなることを目指す薬ですが、刺激症状が起きると「怖い、合わない」と離脱しがちです。刺激症状が強く出る人には刺激を最低限に抑えるための塗り方のコツもお伝えしますので、慌てて治療をやめてしまう前にご相談ください。次に述べる過酸化ベンゾイルと併用するとさらに高い効果が期待できます。この2つの薬剤が一緒になった薬剤(エピデュオゲル)もあります。
過酸化ベンゾイル(べピオゲル/ローション/ウォッシュゲル)
ピーリング作用に加えて抗生剤とは別の機序の抗菌効果により炎症の改善も期待できます。抗生剤と比べて耐性菌(薬が効きにくい菌)を作りにくいため予防目的の長期間の使用も可能です。 アダパレン同様、皮膚の乾燥や刺激症状がありますが、2023年に新たに発売されたローション剤では刺激・乾燥の症状が軽減されより使いやすくなりました。2025年NEW! 塗って5〜10分置いたら洗い流すという新しい剤型が出ました。刺激症状の緩和や、寝具や衣服の脱色といったベピオの難点がクリアされた薬剤です。肌質やスキンケアのスタイルに合わせて患者様が使いやすい薬剤を一緒に探していきましょう。
刺激症状とは別に、過酸化ベンゾイルの成分そのものにアレルギー反応を起こす人が一定数いるので注意が必要です。体調に影響するアレルギーではなく過度な心配は不要ですが、塗った部位が赤く腫れる・かゆみが強い、などの症状があった場合は使用を中止して早めに受診してください。不安がある場合は、最初は顔でなく腕や腹部など万が一反応が出ても目立ちにくい部分に塗布してみるのもよいでしょう。
過酸化ベンゾイルにアレルギーがある場合は、この成分が含まれるすべての塗り薬の使用を避ける必要があります。お薬で合わなかった経験のある方はご相談ください。
デュアック配合ゲル
べピオゲルの成分である過酸化ベンゾイルに、抗菌薬のダラシンT(クリンダマイシン)が加えられています。治療初期のまだ炎症のあるニキビが多い段階では、作用の異なる2つの薬剤を同時に塗布できる利便性の高い薬剤です。赤ニキビが落ち着いてきて再発予防がメインになってきた時点で、過酸化ベンゾイルのみに切り替えることがあります。
エピデュオゲル
ディフェリンゲルのアダパレンと、べピオの過酸化ベンゾイルが混合されています。ピーリング作用を持つ2種の薬剤が配合されているため、現在日本で処方可能な薬剤の中では最も高い効果が期待されます。一方で、副作用である刺激・乾燥症状も出やすい傾向にあります。当院では治療開始期にこの薬を選択することは少なく、アダパレンや過酸化ベンゾイル単剤では効果が低くかつ乾燥症状が強く出ていない場合は、次のステップとして提案しています。
アゼライン酸
日本では化粧品として購入可能ですが、海外においては数十年前からニキビ治療に使用されている薬剤です。角質剥離作用、ニキビ菌への抗菌作用を持っており、また美白作用によりニキビ後の色素沈着(黒ずみ)にも効果が期待できます。
安全性も高く、ニキビ予防薬の中では妊婦でも使える数少ない成分として有用です。上記の処方薬のピーリング剤が刺激や乾燥で使えない方、妊娠中または妊娠を検討している方にお勧めします。
抗生物質(抗菌薬)
炎症を起こしているニキビ(赤ニキビ)に対する直接の抗菌効果を期待して用います。炎症を起こしていないコメドの段階では大きな効果は期待できません。長期使用によって耐性菌ができる可能性があるため、予防的に長く使うのではなく、現在炎症を起こしているニキビにピンポイントで使用します。
ニキビ治療において根本的な治療は、前述のピーリング剤です。たまに小数のニキビができる、というような場合を除くと、抗菌薬のみで治療ではニキビそのものの数を減らすことはできません。
内服療法(飲み薬の治療)
抗生物質(抗菌薬)
ニキビの炎症を起こしているニキビ菌への抗菌効果と薬剤によっては炎症そのものへの効果を期待して用います。長期使用によって耐性菌ができる可能性があるため、使用期間を考慮して用いる必要があります。大きいニキビ、腫れていて痛いようなニキビがある場合には、内服も併せて提案します。
漢方薬
エビデンスは確立していないものもありますが、炎症の改善・皮脂分泌抑制・性周期に伴う悪化などに対して一定の効果が期待できる漢方薬もあります。薬剤によっては顆粒(漢方独特の風味のある粉)ではなく錠剤(粒のお薬)がある漢方薬もありますので、漢方薬を試したいけど味が苦手という方はご相談ください。効果が曖昧なまま半年〜1年と同じ漢方薬を飲み続けることはお勧めしません。1-2ヶ月飲んでみて効果を感じない場合は、中止または別の薬剤に変更します。他院で内服を試したことがあり効果を感じなかった薬剤がある場合は、診察時にお知らせください。
ビタミン剤
皮脂分泌の多い方ではビタミンB群などを内服することもあります。ビタミン不足がニキビの直接の原因である事は少なく、必須の治療ではないと考えています。ずっと飲み続ける必要はありません。
美容クリニックなどで”美肌の薬”として、ビタミンB/C/E製剤やトラネキサム酸を継続処方されている例があります。トラネキサム酸は肝斑などでは有効性が知られていますが、ニキビ治療薬ではなく保険適用もされておりません。当院ではこれらの保険診療での処方は行っておりません。ご了承ください。
ニキビの自費診療
現代では、ニキビの再発予防が可能な治療薬が保険適用となっています。ニキビは若い世代に多い疾患であり、慢性疾患であるため治療は長期に亘ります。当院では“すべての人が安価で安全性の高い治療を継続して受けられるべきである“という理念に基づいて、基本的に保険適用の治療を優先して治療を行っています。
しかし重症のニキビにおいては保険適用の治療のみでは効果に限りがあることは否定できません。悪化したニキビは、深い痕を残し精神面にも大きく影響することがわかっています。顔中に大きいニキビが多発し次々と新しいニキビ痕ができるような例では、できる限り速やかにニキビの新生や悪化を抑えることを優先すべきです。
保険診療での治療を適切に行っても効果が不十分な場合、またニキビの数が多く速やかにニキビの新生を減らす必要性が高い場合などに、ご希望の方には自費診療での治療を提案します。
※保険適用のニキビ治療を希望して受診された方に、いきなり美容治療や高額な化粧品の購入への誘導を行うようなことはありません。
ポテンツァ(Aチップ、Sチップ)
ポテンツァは複数の機能を持つ機器で、ニキビ痕、赤ら顔、毛穴開き、たるみ、小ジワなど様々なお悩みに対する治療が可能です。針の本数や機能が異なる”チップ”と呼ばれる先端部を替えることで、目的に合わせた治療を行います。
ニキビに使うのは主にAチップとSチップです。ニキビに針を刺して針の先端から高周波の熱を通すことで皮脂腺の縮小や赤みの軽減を狙います。Aチップ(1本針)ではニキビそのものに1個ずつ直接刺してニキビの再燃を防ぎます。ニキビの数が多い場合は、複数の針があるSチップを用います。
ニキビに対するポテンツァの治療回数の目安
1~数回(個数・重症度による)
ポテンツァ料金(1回の料金、税込)
- ポテンツァS 【赤ら顔】
一回の施術料金 | |
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顔全体 | 66,000円 |
眉毛から下 | 55,000円 |
鼻・頬上部・こめかみ | 44,000円 |
EGFシートマスク(当日分はお渡し) | 1枚 1,430円 |
- ポテンツァA 【ニキビ・小腫瘍】
一回の施術料金 | |
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腫瘍 個数が1〜4個 | 17,600円 |
腫瘍 個数が5個以上(10個まで) | 4,400円/個 |
ニキビ(顔面、15個まで) | 33,000円 |
※Aチップの治療について:ニキビの場合と腫瘍の場合で計算方法が異なりますが、ニキビの場合は、個数によってより低価格の方の料金が適用されます。詳細は診察時にご確認ください。
イソトレチノイン(アクネトレント)
イソトレチノイン(アクネトレント)とは?
アクネトレントの有効成分イソトレチノインは、ビタミンAの誘導体です。皮脂の分泌抑制、角質細胞の分化の正常化、抗炎症作用、細菌の増殖抑制などの作用により、ニキビに高い効果を示します。
イソトレチノインの内服は重症のニキビに対して非常に効果が高く、欧米のガイドラインでは重症ニキビの第一選択の治療ですが、日本では未承認の薬剤です。
イソトレチノインは副作用や注意事項も多く、すべてのニキビ患者さんが最初に試すべき治療ではありませんが、重症のニキビにおいては切り札的な治療と言えます。
一刻も早くニキビの新生を減らす必要性が高い場合など、診察の上で適応と判断した場合には治療を提案します。
※軽症のニキビや“毛穴の開き”のお悩みに対するイソトレチノインの処方は、当院では行っていません。疾患による健康な皮膚の損失と副作用とのバランスの観点から妥当ではないというのが理由です。
経口イソトレチノイン治療の概要
- 内服回数・量
- 1日1回 20〜40mg ※内服量は体重や性別、症状、効果・副作用などの反応により適宜変わります。
- 治療期間
- 1クール通常5−6ヶ月程度。個々の症状や反応に応じて延長することあり。再発が見られた場合には、数ヶ月間の休薬期間の後、2クール目を行うこともあります。
- 採血検査
- 初回、1ヶ月後、その後も適宜。女性には妊娠検査も行います。
イソトレチノイン内服による副作用
- 主な副作用
- ・頻度の多い副作用:皮膚や唇の乾燥や赤み、喉の乾燥、ドライアイ、鼻の乾燥(それに伴う鼻出血など)、日光に対する感受性の増加、頭痛など
・そのほかの副作用:筋肉痛・関節痛、視力の変化(特に夜間)、肝機能低下、うつ状態など - 特に重篤な副作用
- ・うつ病、自傷行為などの精神疾患(明確な関連性は不明)
・胎児の催奇形性: 妊娠中の女性、現在妊娠を希望している方は、この治療の対象外です。
下記に該当する方は、この治療を行うことができません
- ・適切な間隔での通院ができない、検査を受けることができない方
・18歳未満の方 骨の成長に影響を与える可能性があります。
・そのほか、医師が適応無しと判断した場合
治療経過や安全性への責任が持てないため、オンライン診療含む他院でイソトレチノインを処方されていた方に対してその処方のままの継続処方は承っておりません。当院にて改めて診察や検査を行い適応と判断した場合のみ処方となります。
この治療に関するすべての診察や処方、検査は自費診療となります。
料金(税込)
初診料(初回説明時) | 3,300円 |
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再診料(経過観察) | 2,200円 |
アクネトレント10mg 30日分 | 13,200円 |
アクネトレント20mg 30日分 | 16,500円 |
定期検査※ | 3,300(女性の方は妊娠検査含む)円 |
※初回、1ヶ月後、その後も必要性に応じて適宜
注意事項
- ・定期的な医師の診察:治療中は定期的に医師の診察を受け、効果や副作用など経過のチェック、また血液検査により異常が見られた場合は、治療は中断します。
・日焼け対策:アクネトレント内服中は皮膚が敏感になるため、日焼け止めを使用し、直射日光を避けるよう心掛けてください。
・治療中は皮膚が敏感になるため、美容治療や脱毛などはお控えください。
・治療開始後1ヶ月程度にはニキビの悪化が見られることがあります。1ヶ月後以降に効果を感じることが多いため、自己判断で治療を中断しないようお願いします。
- 未承認医薬品等
- イソトレチノインは医薬品医療機器等法上、未承認医療機器です。
- 入手経路等
- 当院医師の判断のもとメディカルライフ社より購入しています。個人輸入された医薬品等の使用リスクに関する情報はリスクが潜む個人輸入をご確認ください。イソトレチノインの個人輸入についての注意喚起は厚生労働省のHPをご確認ください。
- 国内の承認医薬品等の有無
- 同程度の効能・効果で承認されている国内承認医薬品薬剤はありません。
- 諸外国における安全性等に係る情報
- 米国のFDA(食品医薬品局)など諸外国で承認されています。鬱、精神病、胎児の催奇形性などの副作用も報告されています。
ノンコメドジェニック製品について
初期段階のニキビであるコメド(毛穴の詰まり)ができにくい仕様になっている製品をノンコメドジェニック製品と呼び、スキンケア化粧品だけでなくメイク化粧品にもノンコメドジェニックの製品があります。
ノンコメドジェニック製品は、ニキビを悪化させないことを目的として一定の基準をクリアしている製品です。毛穴を詰まらせにくい、またニキビ菌の栄養源になりにくい、などの特徴を持つ成分を配合してニキビ肌に配慮された製品と言えるので、選ぶ時の参考にすることをお勧めします。
ノンコメドジェニックのスキンケアや日焼け止めなどは当院でも取り扱いがありますので、ご希望の方はお知らせください。※保険診療において、診察で化粧品を強くお勧めするようなことはありません。
ニキビに関するよくある質問
保湿不足でニキビができているのですか?
肌の乾燥はニキビの直接の原因ではなく、保湿すればニキビが改善するわけではありません。むしろ一生懸命保湿しようと油分の多いスキンケア製品を塗る、ニキビを悪化させる可能性がありますので、皮脂が多い脂性肌の人は注意が必要です。ピーリング剤の治療を始めると肌が乾燥しやすくなるので、肌の機能を正常に保つための適度な保湿は必要です。保湿する際には、油分の多いクリームやオイル類は避け、ニキビの元を作りにくいよう配慮されている”ノンコメドジェニック”製品(前述)がお勧めです。
治療中のメイクは可能ですか?
ニキビの赤みは非常に気になるものですので、ニキビ肌だからメイクを避けるような指導は一切行いません。ただし赤みをしっかり隠してくれるコンシーラーやファンデーションを連日長時間塗ることは、ニキビ悪化の原因となります。帰宅したら早めにクレンジングする、ノンコメドジェニック製品(前述)を使う、などできるだけニキビを悪化させない工夫をしましょう。メイク製品の選び方についてもできる限りお伝えしています。
ニキビで受診は大げさに感じますが、どのくらいの段階で受診が必要ですか?
ニキビは顔という目立つ部分に痕を残す可能性のある皮膚疾患で、痕を残さないことが何よりも重要です。受診なんて大げさかな?と思うくらいの初期の段階が、治療開始に最適な段階だとお考えください。適切な治療と正しいケアにより、再発しにくい状態を維持することの重要性をお伝えするようにしています。年齢に関しても、できやすい人では小学校高学年からが治療対象です。早い年齢から正しいケアに慣れていくことで、綺麗な素肌を保つことができます。
ニキビは慢性の皮膚疾患で、できやすい肌質の方は成人後も長年にわたり繰り返します。改善してもすぐには治療を中断せず、ニキビができやすい肌質を上手にコントロールしていきましょう。